72年発表の6作目。52人のオーケストラと24人の合唱隊を従えて録音された彼ら初のライヴ盤。元々クラシックの要素の強い曲が多かったが、代表曲を実際のオーケストラをバックに録音した本作は単なるライヴ盤というよりも作品としての意味合いが強く、次作『グランド・ホテル』の布石と考えた方がしっくりとくる。スコアを書いたのはゲイリー・ブルッカーであり、彼の力量が最大限に発揮された作品と言って良いと思う。前作を最後にロビン・トロワーが脱退したため、新たにデイヴ・ボール(g) とアラン・コートライト(b) が参加している。一説にはリハーサル不足、そしてメンバーとオーケストラ/合唱隊とのコミュニケーションも上手くいっていない状態での録音だったそうだが、仕上がりはさすがはプロ!!というレベル。また録音も良く本作の臨場感たるものホールのイメージがそのまま目の前に広がるほどだ。メンバーもクラシック勢も協調というよりは対抗意識むき出しでそれはある意味でマイナス要因にもなりうるわけだが、この迫力を前にしては言葉を失う。本作はいわゆるその他大勢のオーケストラ共演作ではない。完全なロックvsクラシックのバトル・ロイヤルである。しかしそれが素晴しい。こういう作品にはほとんどお目にかかったことはない。大音量で聞くべし。 Gary Brooker (vo、p)
B.J.Wilson (dr)
Chris Copping (org、harpsi)
・Dave Ball (g)
Alan Cartwright (b)
Keith Reid (words)
Chris Thomas
 73年発表の7作目。ギタリストがミック・グラハムに交替して発表されたグループの代表作の一つ。優雅でクラシカルな雰囲気を漂わせるタイトル曲は彼らの名曲群の中でも屈指の出来栄であり、絶対に聞くべき傑作である。オーケストラ、合唱隊の使い方も非常に手慣れた印象を受け、気品すら感じさせる。3.のクラシカルな雰囲気のワルツもゲイリーの素晴しいヴォーカルと相まって格別の感動を与えてくれる。ラストではラテン風味すら感じさせ、これだけの完成度を持ちながら余裕すら感じさせているのは凄いと思う。
ロビン・トロワーがいないためか一気にハード・ロック的な志向が弱くなり、荒々しさには欠けるが、メロディの美しさを全面に出したクラシック風の作風は今までとはまた違った言葉に表せないほどの満足感を与えてくれる。繰り返しになるがとにかくメロディが良い。そして上品で押し付けがましさのないオーケストラの共演。たまらないものがある。ミック・グラハムのギターは自己主張の強さはないが、前任者のロビンの雰囲気をかなり意識しており、木の温もりを感じさせているのが嬉しい。文句なしの名盤。
Gary Brooker (vo、p)
B.J.Wilson (dr)
Chris Copping (org)
Alan Cartwright (b)
Mick Grabham (g)
Keith Reid (words)
Chris Thomas
 
 74年発表の8作目。美麗なジャケットに思わず目を奪われる作品だが、前作『グランド・ホテル』をピークにしてグループの勢いは徐々に下降線に向かっていく。B.J.コールがペダル・スティールでゲスト参加しているが、これは次作のアメリカ路線の布石と見る事も可能だろう。
まずはぶっ飛んだハードなソウル・チューンの1.でぶち切れ。2.はアメリカ民謡にプロコル流のメロディを融合したかのような佳曲でどことなくザ・バンドを思わせる仕上がり。メロディそのものは初期そのままであり、かつての彼らが好きな人であれば喝采もの。3.は終末感を感じさせる哀愁のメロがブルッカーの歌声をより一層引き立てる佳曲。この曲も初期をそのまま思い起こさせ、オルガン、ギター共に泣きのフレーズを連発する。4.は雪景色が思い浮かぶ彼ら流のブルース・ロック。こちらも泣きのメロが心に残る。トロワーが帰ってきた?かのようなギター・ソロも秀逸。
彼らの作品の多くがそうだが、本作も寒い冬空をバックに聞くとハマりすぎだろう。本作は前作の影に隠れていて正当な評価を得られていない節もあるが、どちらにしても賛否は別れると思う。本作は完全にトロワーがおとなしかった初期の作風に磨きを掛けたものであり、原点回帰的な要素が強い。しかしながら楽曲の出来は素晴しく特に初期の彼らのファンなら涙ものの仕上がりだと思う。本作も新しさを求めなければ完璧な名盤の一つである。
Gary Brooker (vo、p)
B.J.Wilson (dr)
Chris Copping (org)
Alan Cartwright (b)
Mick Grabham (g)
Keith Reid (words)
B.J.Cole (pedal-st) Chris Thomas
 
 75年発表の9作目。プレスリーのヒット曲などの作家として知られるレイバ−&スト−ラーをプロデュースに迎えて制作された作品。ビートルズの10.など彼らにしては初めて他人の作品を取り上げているのも、彼らの進言だった可能性がある。
1.はマリンバの導入によりエキゾティックな雰囲気を出している。きらびやかなストリングス・マシンも印象的で従来よりも洗練されてポップになった印象だが、曲そのものは従来と大差はなく決して違和感は感じられない。2.彼ららしい泣きのメロディが効いた佳曲だが、洗練されたピアノや奥に引っ込んだオルガンと計算され尽くしたバランスの良いアレンジ/ミックスが聞かれる。後半のブラスも絶妙のバランスで導入されており、かなり贅沢な使い方と言えるだろう。3.もブラスの導入された優雅なブルース。こちらも凄まじくバランスの良いアレンジになっている。
まるでスピーカーの前の布をとっぱらったかのような抜けのよいサウンド/演奏が印象的。本作と本作以前の作品とどちらが良いかというのは判断が難しいところだが、このプロデューサーは耳が良くかなり繊細な部分にまで手が行き届いている印象を受ける。グループがやっていることは大差がないはずだが、ここまで変わるのか?そんなことを思わずに入れない作品である。本作が大きな成功に至らなかったのは残念だが、レイバ−&スト−ラーに目を付けたのは間違いではなかったはず。本作発表後にアラン・カーライト(b)が脱退する。
Gary Brooker (vo、p)
B.J.Wilson (dr)
Chris Copping (org)
Alan Cartwright (b)
Mick Grabham (g)
Keith Reid (words)
・Jerry Leiber
・Mike Stoller
 
 77年発表の10作目。91年には再結成するものの、この時点では彼らのラスト作にとなった作品。前作でアラン・カートライトが脱退して本作から名手ピート・ソリー(k) が新たに加わっている。
アナログ時代では片面に従来通りの小品を5曲、そして片面に3部構成の大作一曲というある種のプログレ的な内容となっており、パンクやニュー・ウェイヴの時代を迎えたこの時期にあえて逆らうような作品でもあった。その大作の6.「小さな虫の無言の樹の物語」は輪廻転生をモチーフに制作されており、そこから邦題『輪廻』が付けられている。
1.は目が覚めるようなクリアなピアノの音だけでも素晴しいが、徐々に加わってくるオーケストラ楽器の立体感ののサウンドも素晴しくぜひとも大音量で聞いてほしい逸品である。楽曲はレトロ・モダンで哀感を感じさせる彼ららしいもので絶品と一言だけ付け加えさせていただく。2.は女性ヴォーカルも加わったこちらも哀感を感じさせる美メロが印象的なマーチング・ドラムも入ったワルツ。美麗なストリングスや木管がたまらない魅力を放つ。
もはや楽曲については多くは語るまい。有終の美にふさわしい強力なものが揃っている。前作でも見られた計算された無駄のないアレンジとクリアな音質に更に磨きを掛けたサウンドは一曲目の冒頭だけでも十分に分かり、本作にはもはや文句の付けようのないレベルになっている。彼らの場合は初期の4枚の評価が高く終盤の作品は聞いたことすらない人もいるかと思うが、クオリティだけで言えばそのレベルは向上しつづけ本作がマックスだったと言ってよい。グループは本作で一旦解散するが、それはあくまでも時代に合わなかっただけのこと。作品の魅力は今でこそよく分かる。
Gary Brooker (vo、p)
B.J.Wilson (dr)
Alan Cartwright (b)
Mick Grabham (g)
・Pete Solley (org、syn)
Keith Reid (words)
・PROCOL HARUM
・Ron Albert
・Howie Albert
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